女性ならではの発想・気遣いが蔵の危機を支え
今日を築いた。 焼酎業界の「お母さん」的存在


田村合名会社 代表社員 桑鶴ミヨ子 さん


鹿児島県内では限られた女性の蔵、田村合名会社。切り盛りするのは代表社員の桑鶴ミヨ子さん。歴史ある古い蔵は、常に整頓され凛とした表情を見せる。女性らしい気遣いや、新しい切り口が、田村合名の危機を救い今日を築き、業界に大きな刺激をもたらしている。鹿児島の焼酎業界の「お母さん」的存在の、桑鶴ミヨ子氏は、厳しくも人情・温もりに溢れている。

Q焼酎造りのこだわりを教えて下さい。

私共の蔵は、 一次仕込みはもちろん、二次仕込みも甕で行ったものだけを 田村の「甕壷仕込み」と称しています。焼酎造りには欠かせない「甕」は、明治、創業以来、大切に使用してきた「和甕」を使用。やっぱり、日本の甕壺でないとだめですね。今ではこの甕そのものを手に入れることが難しくなりました。田村の焼酎は、数十年も前から契約栽培を行っており、南薩の自然の恵みをいっぱいに育った、山川の朝採れのコガネセンガンのみ使用しています。大量生産をせず「味」「旨味」を追求し続けています。




Q 代表就任時の当時を振り返って


蔵を継ぐ前は、実家の保育園の主任保母をやっていました、代表として就任して、まずは経営状況の把握から。経営はかなり厳しく、「おまえがやって、だめな時はいいが」と言われるほどの状況。私の代でどうにか変わらなくちゃ、という想いは強かったですね。そこで、考えたのが新商品の開発。これまで、田村合名は白麹の「薩摩乃薫」一本でやっていました。焼酎のことを知らない、代表になりたての女の私が、この道何十年の杜氏さんに向かって「黒麹を使った新商品を造って」とお願いするんですから、そうすんなりは行きませんでしたよ。「薩摩乃薫」自体、人気がありましたが、生産本数は限られていました。何とかこの状況を打破しなければと思って、白麹で良い焼酎が造れるのなら、黒麹でも美味しい焼酎ができるはず、って。安易な発想かもしれないけど、杜氏の腕を信じていました。歴史や伝統を尊重する事はもちろんだけど、消費者の嗜好は常に変化するでしょ、焼酎も様々に進化するべきだと思うんです。普段、焼酎造りに専念する杜氏に向かって、懇々と厳しい現状を説明し、再起に懸ける想いを伝えました。もう、半ば喧嘩のような状態でしたけどね。杜氏の試行錯誤のすえ完成した「純黒」は、芋の特性を良く捉え、香りの余韻を楽しめる焼酎となり、お陰さまで驚くほどヒットしました。女性はファッションやおしゃれが大好きでしょ、古いしきたりの中に、ぽっと女性の私が入った事で、その感覚が加わり、功を奏したのかもしれませんね。





Q 焼酎ブームを経た今、今後の課題をお聞かせ下さい。

焼酎ブームの前は、小さな蔵と酒屋さんとで力を合わせ、全国飛び回ったものでした。その頃は、頻繁に全国の酒屋さんや飲食店さんが、蔵の見学にもいらしてくださいました。昔ほどではありませんが、未だに蔵の見学にきてくださる熱心な焼酎ファンの方もいらっしゃいます。焼酎ブームが起こったことで、鹿児島の芋焼酎が全国的に広がり、ブームが去った今でも、焼酎を愛して下さる方がいることは嬉しいことです。それ故に、ファンの皆様をガッカリさせない、良い焼酎を造り続ける必要があります。小さな蔵だからできるこだわりを貫きたいと思っています。また、一次仕込みで米を使用する乙類焼酎全体を対象とした、米の生産地表示問題も課題となってくるでしょう。きっかけは数年前の事故米です。正直、農水省の管理されていた米を使用していたにも関わらず、焼酎業界全体にとって大きな打撃となりました。産地表示によって、消費者の方の安心感に繋がることは良い事だと思います。しかしながら、焼酎の麹造りには硬く・ねばりの少ない「外米」が適し、今日の芋焼酎を支えてくれたのも「外米」です。しかし、消費者が受け取る印象はいかがなものか、不安は残ります。上質な焼酎には「外米」は欠かせないと思います、単純に原産地表示で懸念されてしまうのは、残念な事です。焼酎の美味しさに納得して、選んで頂けと嬉しいですね。そのためには、焼酎が如何にして造られているか、技術・伝統、文化など、もっと多くの方に知って頂く努力をしていかなければならないと感じています。

 

 
田村合名会社

住所 指宿市山川成川7351番地2
TEL 0993-34-0057


代表銘柄「薩摩乃薫」を始め、桑鶴ミヨ子氏が代表就任後に誕生した「純黒」や、白麹と日本酒用の黄麹を使い、醸した年間7000本限定の「鷲尾」、それぞれ個性を持った焼酎は、全国の酒好きを唸らす逸品ばかり。